あらためて、風邪(かぜ)について

院長です。

過去にもお伝えしてきていますが、受診されるきっかけとして最も多い「風邪(かぜ)」について、理解しておいていただきたいことを改めてまとめてみたいと思います。

風邪とは多くの場合、急性上気道炎(普通感冒)を指します。主にウイルスの感染による上気道(鼻腔や咽頭等)の炎症性の病気で、咳・のどの痛み・鼻汁(鼻みず)・鼻閉(鼻づまり)などの局部症状、および発熱・倦怠感・頭痛など全身症状が出現した状態のことです。80~90%が複数のウイルスの感染によるものであり、そのほか10~20%が細菌やマイコプラズマ、クラミジアなどの感染によるとされています。

まず、ウイルスと細菌との違いについて述べておきます。ウイルスは蛋白質の外壁と内部に遺伝子を持った単純な構造体で、人間の体の中に入ると細胞の中に入り込み、その細胞に自分のコピーを作らせます。自分自身で増殖する能力はなく、生きている細胞の中でしか増殖できません。一方、細菌は単細胞生物で、自分で増殖する能力を持ち、ウイルスの10~200倍の大きさがあります。抗菌薬(抗生物質)は細胞の構造を利用して作用するものであり、細菌をやっつけることはできますが、ウイルスには効果がありません(特定のウイルス、たとえばインフルエンザウイルス、の増殖をおさえる薬はありますが、ウイルスを消滅させる薬はありません)。したがって、ほとんどの風邪に抗菌薬は無効であり、自分自身の持つ自然治癒力で治っていくものなのです(新型コロナウイルスに対して、抗菌薬は使われませんね)。
受診されたときに処方する薬の大部分は、風邪に伴う症状を緩和するためのものです。薬の服用により予防することはできませんし、早く治るということもないのです。

次に、主な症状について述べたいと思います。

【発熱】

風邪症状の中で、最も気になるものが発熱ですね。では、なぜ発熱するのでしょうか。
ウイルスが体の中に侵入すると、ウイルスを排除しようと体内の免疫機構が働きだします。その過程で内因性発熱物質というものがつくられ、脳の視床下部にある体温中枢にはたらき、体温を上げるよう身体各部に指令が出され、一定のところまで体温が上昇することとなるのです。体温が上昇すると、
・ウイルスや細菌の増殖が抑制される
・白血球の機能が高まる
・免疫機能が高まる
といったことが起こります。つまり、ウイルスが体温を上昇させているのではなく、自分の体を守るために私たちは体温を上げているのです。
このように発熱は、体を守るための大切な生体防御機能のひとつであると理解されています。安易な解熱剤の使用は避けたほうがよいということも、ご理解いただけるかと思います。

・解熱剤を使用する上での主な留意点
①効きすぎによる低体温ショック(高熱ほど、その可能性が高くなる)
②解熱後の体温上昇による体力の消耗
③解熱時の大量発汗による脱水のリスク
④解熱による病状の悪化(ウイルスや細菌の増殖)
⑤解熱剤そのものによる副作用

解熱剤の使用は、発熱にともなう頭痛などがひどい場合や、高熱により眠れない状況が続く場合、十分な水分摂取ができない場合など、やむを得ない時にしましょう。

体温が上昇していく途中では、熱放散を抑えようと皮膚の血管が収縮するため、手足は冷たく顔色は悪くなります。また、ガタガタ震えるのは、筋肉による熱の産生を促すものです。体力を使うこのような状態においては、温めてあげて体温が上昇するのを助けてあげるのがよいでしょう。逆に体温が上昇し安定した後は、必要以上に体温が上昇して体力を消耗しないように薄着にして、掛物などで調節するようにします。

【鼻汁、鼻閉】

かぜのウイルスが体に侵入してくる経路として最も多いのは、鼻になります。

ウイルスが侵入してきたことを感知して、体はできるだけ奥にウイルスを入れないように反応します。具体的には、鼻の粘膜が腫れて鼻閉の症状が出ます。鼻粘膜の腺細胞からの分泌される粘液の増加や、毛細血管からの浸出液が増加することで鼻汁となります。鼻汁は、体に侵入する病原体をはじめとする異物をブロックし、押し戻して洗い流すという役割を演じているのです。鼻汁・鼻閉を生じる状態では、眼から鼻腔に連なる鼻涙管を涙が流れにくくなり、眼に停滞した涙が乾いて眼脂が増加しやすくなります。鼻汁はその後、粘りけが強くなり膿性鼻汁(黄色や緑色の鼻汁)となります。これはほとんどの場合、壊れた粘膜細胞の破片を白血球(好中球)が取り込むからであり、細菌に感染したからありません。後方に流れた鼻汁を吸い込むと、喉を刺激することになり咳嗽反射が起こります。特に乳児は鼻呼吸が主体であり、鼻汁を吸い込むことにより夜間に湿性咳嗽を起こすことが多いのです。

このような経過で最終的に鼻汁が治まるまでには、1~2週間かかります。

【咳】
上気道(鼻から喉頭まで)に生じた炎症自体が刺激となるほか、気管支などで生じた分泌物を喀出するため、あるいはその分泌物自体が気道を刺激することにより、咳が誘発されます。また、鼻汁が気道に流れ込むことによっても、咳が誘発されます。小児に対しては、中枢性非麻薬性の咳止めが処方されることが多いのですが、実はこれらの薬物で、小児に有効性が示されたものはありません。

一般に咳は、鼻汁に比べて長引くことが多く、3週間前後続くことが多いとされています。

 

乳幼児が集団生活を始めると、頻繁にウイルス感染を反復する(治りかけてきたところで、別のウイルスに感染する)ために、発熱がなくても鼻汁・咳嗽の症状が長く(1か月以上)続くことは、よく経験されることです。

風邪症状である発熱や鼻汁・咳は、感染防御の上で重要な身体の生理的な反応であり、風邪に伴う諸症状を、その意味・意義に目を向けることなく薬剤の力を借りて止めようとすることは、子どもにとっては意味がないばかりか時には有害でもあります。薬を服用することで、風邪の症状が早く良くなるわけではありません。

このように風邪は、最終的には自然に治っていきます。とはいえ、お子さんが風邪症状で辛い思いをしているのを放っておくことはできませんね。お子さんのことを一番よく理解しているのは、われわれ医療従事者ではなく、ご両親です。心配なことがあれば、遠慮なく受診してください。症状の程度や日常生活への影響の大きさにより、薬を投与すべきかどうか、投与するのであればどの程度の期間必要なのかを考えて対応するように努めています。

(2023.5.5)