離乳食の基本は「家族の食事」

院長です。前回のブログの最後に、これまでわたしがお伝えしてきた離乳食に関するポイントについてお伝えしました。

・家族で一緒に食べる:13回から始める
・食べる量は、赤ちゃんが決める
・家族の食事から取り分ける
・大人が「不味い」と感じるものは、赤ちゃんも食べない
・家族の食習慣を見直す機会

今回は、これらのポイントについて詳しく述べていこうと思います。

その前に、離乳食について考える上で大切な赤ちゃんの味覚の発達について確認しておきましょう。

赤ちゃんは、お母さんのお腹の中にいる時から味覚が発達しており、羊水を通して味を感じることができていると考えられています。実際に、妊娠期のお母さんの食事は、羊水を介して赤ちゃんの食べ物の好みに影響を与えることが示されています。同じようなことがにおい刺激に関しても報告されていて、妊娠期のお母さんが経験したにおいを、赤ちゃんが嫌がらないことが報告されています。羊水には非常に多くの味覚刺激物質と匂い物質が含まれており、赤ちゃんは生まれる前からお母さんが食べたものの味やにおいによる刺激を受けているのです。生後も、お母さんの食事に含まれる味覚刺激物質が母乳に移行しているので、とくに母乳で育てられている赤ちゃんの場合、味覚の発達にお母さんの食事の味が強く影響しているといえます。このようなことから、お母さんの食習慣つまり家族の普段の食事は、赤ちゃんの食べ物の好みに大きく影響していることが分かると思います。

「離乳食を13回から始める」というのは、家族皆で一緒に食卓を囲み、一緒に食べる、ということです。「離乳食を食べる機会を、家族と共に13回設ける」という表現の方が分かり易いかもしれませんね。その時に赤ちゃんが食べるかどうかは別として、皆で一緒に食べる、ということです。生活習慣の形成の上でも、大切なことだと思います。

食べる量は赤ちゃんが決めてくれます。それまでの発育の歩みは、赤ちゃんによって違いますね。授乳の仕方に個人差がるように、離乳食の食べ方・進み方も個人差が大きいものです。母乳やミルクはそれまで通りに欲しがるだけ与えた上で離乳食をすすめることになりますから、授乳量によっては本などに書いておる通りに食べてくれるとは限らず、食事ごとに食べる量にムラがあってもかまわないということです。

離乳食は、家族の普段の食事が基本になります。赤ちゃんの味覚の発達は、すでに家族の食事をもとに進んできているのですから、自然なことですね。調理の途中で取り分けて、食べやすいように手を加えて与える、ということです。味付けについては、まず普段の家族の食事に見直すべきところがあれば、そこから始めましょう。できれば妊娠中から、が理想ですね。その上で、「・・・過ぎる」味付けでなければ、問題はないと思います。

お母さんから「食べてくれない」という相談を受けたとき、わたしはまず「それを食べて、お母さんは美味しいと感じますか?」ということをお尋ねします。多くの場合、「美味しくありません」とお答えになります。そう、大人が美味しくないと感じるものは、すでに多くの味を経験している赤ちゃんにとっても美味しく感じるものではなく食べたがらないのです。

 

ガイドブックなどに書いてある通りに、お母さんと赤ちゃんが向かい合い、決まった時間に離乳食を始めようとしても、その通りには進まないことはよく経験されます。それは、これまで述べてきたような赤ちゃんの能力をほとんど考慮に入れていないやり方であるからではないかと、考えています。心を込めて作った離乳食を食べてくれなかったとき、その時のお母さんの悲しみは、赤ちゃんにも伝わり、それを引き出してしまったという感覚が赤ちゃんの心にも残り、離乳食の時間は楽しいものではなくなってしまいます。

家族が食べているもののなかから、お母さんが「食べられそう」と思うものに手を加えて与える。それを食べてくれたときの「こんなものも食べられるんだ」というお母さんの喜びを赤ちゃんと共有できたとき、お母さんの心も赤ちゃんの心も豊かなものとなっていく。離乳食をすすめることは、このような関係性を育んでいく大切な機会でもあるのです。

(2024.3.30)