院長です。
今回のブログは、母乳バンクの存在を皆さんにも知っていただきたい、そしてその運営資金の寄付についてお願いしたい、そのような趣旨で書きました。ご理解いただけるようでしたら、最後までお読みいただきたいと思います。
皆さんは、『母乳バンク』をご存じでしょうか。母乳バンクは、自分の子どもが必要とする以上に母乳がたくさん出るお母さんから、余った母乳を「寄付」してもらい、その「ドナーミルク」を適切に検査、保管・管理を行い、タイミングよく母乳を必要とする乳児に医療的な見地から「ドナーミルク」を適切に提供する仕組みです。日本では、2013年10月に昭和大学小児科研究室内に「母乳バンク」が設立され、そこを母体として2017年に「日本母乳バンク協会」が設立され活動されています。
早産児、特に出生体重が1500g未満の極低出生体重児や消化管疾患・心疾患があるハイリスク新生児にとって、経腸栄養の第一選択は赤ちゃんのお母さんの母乳(以下、自母乳)です。しかしながら、十分な支援によってもお母さんの中には十分な自母乳が得られなかったり、何らかの理由で自母乳を使用できなかったりする場合があります。このような場合に欧米では、認可された母乳バンクで管理され、低温殺菌されたドナーミルクを与えるように推奨されています。
日本は産婦人科、小児科に携わる医療スタッフの意識、努力のレベルが、先進各国と比較しても高く、その成果も世界各国に比べても引けを取りません。このために「母乳」や「ドナーミルク」を使わなくても、低出生体重児の死亡率や障害を持つ割合も低いとの意見もあります。しかしながら、医療の進歩をもってしても致命的な疾患である壊死性腸炎(注)など、「ドナーミルク」の活用で予防が高く期待される疾病も存在しています。
わたしは開業する前の10年間、新生児科医としてNICUに勤務し、早産児・未熟児の治療に携わってきました。本来は静かで温かいお母さんのおなかの中で、十分な栄養をもらって大きくなるはずの赤ちゃんが、いきなり未熟な状態で外の世界に放り出され、さまざまな管や点滴に繋がれ治療を受けなければならない状態となってしまうのです。そのような状態の赤ちゃんに、適切な栄養を投与できるかどうかが、赤ちゃんの将来に大きく影響を及ぼすことを実体験してきました。当時、日本には母乳バンクはなく、その設立をわたし自身も大変うれしく思っています。
ところが、その日本母乳バンク協会の運営資金が不足し、協会を設立された代表理事でもある水野克己先生が、クラウドファンディングを始められたことを知りました。水野先生は、新生児科医としても私の先輩であり、特に母乳育児支援に関して今も多くのことを学ばせていただいています。早速私も寄付をさせていただきましたが、目標額にはまだまだ届いていない状況です。
できましたら、日本母乳バンク協会のホームページをご覧いただき、その活動を知っていただきたいと思います。そして、もしも現在行われているクラウドファンディングに賛同いただけるようでしたら、ご寄付いただきたいと思います。誰かから依頼されたわけでもなく、わたし自身の自発的な思いからのお願いです。どうぞよろしくお願いいたします。最後までお読みくださり、ありがとうございました。
(注)壊死性腸炎とは、腸への血液の流れの障害に、細菌感染などの因子が加わることにより腸が壊死してしまう病気です。
ほとんどは生まれてから30日未満(特に1週間以内)の赤ちゃんにみられますが、時に生後30日目以降にみられることもあります。妊娠週数が32週以下の早産児や生まれた時の体重が1500g未満の赤ちゃん、なかでも1000g未満の赤ちゃんにおこる危険性が高く、全体の80%は体重が1500g未満の赤ちゃんにみられます。最近の新生児医療の進歩により体重の小さな赤ちゃんの命が助かるようになってきたため、壊死性腸炎の発生が増加しているといわれています。
その原因は、まだ完全にはわかっていませんが、小さな赤ちゃんの腸の未熟性、血液の流れの障害、細菌感染がその要因となります。腸の免疫や運動が未熟なために腸の中で細菌が異常に増えます。これに加えて、血液の流れが障害されて腸の壁に傷ができると、その細菌が腸の壁のなかに入り込みやすくなり壊死をおこすと考えられます。出産の前後に、赤ちゃんの体の血液の流れが一時的に悪くなり酸素が少なくなる状態(仮死、呼吸の異常、循環の異常、先天性の心臓病など)や子宮内や出産時の感染が加わると発症する危険性が高くなることがわかっています。また人工栄養(人工ミルク)も壊死性腸炎を引き起こしやすいと考えられていますので、できるだけ母乳をあたえることが、その予防につながるといわれています。(日本小児外科学会ホームページより引用)