母と子の将来を見据えて

院長です。すこし思うところがあり、筆を執りました。

 今月に入り2件、母親がわが子の首を絞めて殺してしまったという事件がありました。報道によれば、母親はそれぞれ「育児に悩んで疲れた」「育児や家事をこのまま続けられるのか不安」と述べているそうです。以前から周囲に相談していたようです。それでも起こってしまったことに、事の重大さを感じます。

 1990年代から虐待が社会問題化し、2000年に児童虐待防止法が施行されています。虐待の問題が社会的に認知され、多くの対策が行われてきているにもかかわらず、虐待の件数は増加の一途です。結果だけをみれば、これまでの対策は有効であったとは言えないでしょう。

 最近行われたある調査によれば、出産体験と育児肯定感の関係について、出産体験が「よかった」と思っている人は、その後の育児にも楽しさや充実感、自信を感じられるようになり、逆に出産への満足度が低かった人ほど、子育てに自信がもてないことがわかったそうです。そして、出産体験への満足度が低い人ほど、母親に向けた心身の相談サービスの認知が低く、またサービスに満足する比率も低い傾向にあり、より必要な人に必要な支援が届いていない可能性が考えられるということです。出産体験そのものが、その後の育児に大きく影響することがうかがえます。

 これまでも虐待防止のために、妊娠期そして出産後の育児期の対策として、さまざまなことが講じられてきていますが、出産そのものに焦点を当てた対策は無かったように思います。妊娠期から育児期までの対策が意味のあるものとしてつながっていくためには、出産のあり方を見直す必要があるのではないかと思います。

 大部分の分娩が病院や診療所で行われるようになり、何よりも安全性が重要視されてきました。それは、母親も赤ちゃんも元気でトラブルがない、という意味での安全性です。しかし今、求められるのは、母親と赤ちゃんの将来の安全性をも見据えた分娩のあり方の検討であり、「よい出産体験」とは何か、その実現には何が必要なのか、そういったことを真剣に考え、動き出さなければならない時期が来ていると思っています。  (2015.2.20.)