医師の理想形

院長です。

認知症医療の第一人者として知られる精神科医の長谷川和夫先生が11月13日、老衰のため亡くなられたそうです。昨日の報道で知りました。

わたしが長谷川先生を知るきっかけとなったのは、肉親が痴呆症と診断され痴呆症について調べる中で、「長谷川式簡易知能評価スケール」を知ったことでした。これは1974年に先生が開発され、1991年の改定を経て、今も広く診療に使われているものです。また先生は、「痴呆」という言葉を、「認知症」と改めるのに貢献されたことでも知られています。

長谷川先生は2017年秋に、ご自身が認知症になったことを公表され、その後も執筆や講演などの活動を続けられていました。わたしは、認知症になった後の先生の様子を、テレビのドキュメンタリー番組で観る機会がありました。その中で先生は、「自分が認知症になり、ようやく本物の認知症研究者になれたのではないかと思っている」という趣旨のことを話されていたことがとても印象に残っています。認知症になった方の気持ちを第一に考えていた先生にとっては、自らが認知症の患者となったことで、ご自身が研究してきたことが完結したのかもしれない、そう感じています。

わたしは小児科医となってから、形を変えながらも長年にわたり赤ちゃんの診療に携わり、多くのことを経験してきました。もちろんそれは、これからも続きます。長谷川先生の歩みが医師として一つの理想形であるとしたら、自分にとってのそれはどのようなものになるのか。これからも命の誕生に関わり続けるとして、例えばそれは、その前の妊娠期間中のお母さんへの関りになるのかもしれない。あるいは、長期にわたる成長・発達のフォローアップになるのかもしれない。赤ちゃんの立場になって考える、ということを基本としつつ、まだしばらくは試行錯誤が続くんだろうなあ、そんなことを考えています。 (2021.11.21)