院長です。
小児科外来には、ときどき赤ちゃんの体重の増え方を気にされて受診される方がおられます。そのほぼ100%が母乳だけで育てておられる方です。原因は大きく分けて二つ。一つは、お母さん自身が母乳の分泌量に不安をもっていて、十分量飲めていないのではないかと気になっている場合。もう一つは、保健師さんの家庭訪問や乳児健診の際に、体重増加が良くないと言われて不安になったり受診を勧められた場合。今日は後者について触れてみたいと思います。
この場合は、赤ちゃんの体重を計測したうえで、「体重の増えがよくない」「ミルクを足した方が良い」と言われて受診されます。体重の値を母子手帳にある体重増加曲線と照らし合わせて、このような指摘を受けるのです。ところが実際には、標準とされる範囲(大部分の赤ちゃんはこの範囲に入りますよ、という範囲であって、そこを外れても、それだけで「異常」ということにはならない。)に入っていることがほとんど。ただ、その範囲の中の下半分(体重が軽い方)にあるか、境界線の付近にあることが多いのです。それを「体重の増えがよくない」と言われてしまうのです。それまで何の疑問も持っていなかったお母さんほど、不安になり混乱しています。赤ちゃんを診察し、これまでの発育の状況を確認します。身長や頭囲の発育が順調で、急に体重が増えなくなったというようなことがなければ、これまでどおりの授乳で大丈夫ですよ、とお話しします。
赤ちゃんにはそれぞれに授乳のパターンがあり、このような体重の増え方をする赤ちゃんは、授乳のときに眠りがちで、しっかりと吸ってくれない場合が多いのです。母乳の分泌には問題が無いのに、しっかり起こして飲ませないと、体重の増えはゆっくりになります。それでも着実に増加傾向にあれば、まず問題はありません。加えて確認しておくべきは、出生時の体重です。この発育のパターンの赤ちゃんの中に、在胎週数の割に出生時の体重が軽かった赤ちゃんが多く含まれています。その場合は、当分の間小柄な状態が続くことが多く、しっかり飲めていても、身長が低めでかつ体重も軽めに経過するのです。
体重の増え方を気にされているお母さんに、ミルクを足すように勧めることは簡単で、実は医療者側の安心のためでもあります。しかしそれが必要のないミルクであれば、赤ちゃんにとっては迷惑以外の何物でもありません。そのために母乳の分泌が悪くなる場合もあります。大切なのは、赤ちゃんの状態をその後もフォローすることです。少なくとも1回は、1~2週間後に体重の増え方を確認します。赤ちゃんの安全の確保に加えて、お母さんに自信を持ってもらうことも大切なことです。