院長です。
「母乳代用品のマーケティングに関する国際規準」(WHOコード)というものがあります。一般にはほとんど知られていないもので、私自身がその存在を知ったのも、12年前に開業した後だったと思います。
1960年代に先進国では出生率が軒並み低下したため、乳業メーカーは市場を求めてアフリカや東南アジアといった第三世界へ進出しました。産院ではミルクが過剰に使われ、人工栄養の赤ちゃんがどんどん増えました。清潔な水や消毒設備が得にくい国々では、細菌が繁殖したミルクを赤ちゃんに飲ませることとなり、また粉ミルクを買い続けられる経済力がないために、薄く溶いたミルクを飲ませる人も多くありました。結果として、下痢や栄養不足でたくさんの赤ちゃんが命を失いました。これに対し、欧米の市民活動家や小児栄養の専門家たちによる抗議行動が始まり、特にシェアの半分を占めていたネスレに対するボイコット運動は大規模で、1977年に米国で始まり、ヨーロッパやオセアニアの国々にも広がり、長期にわたり継続されました。WHOコードは、こうした抗議行動の成果として、企業が営利本位に暴走することから赤ちゃんを守るために作られたものです。
このWHOコードに関して、大阪市立十三市民病院小児科の平林先生が寄稿されていますので、お読みいただければと思います。リンク先は下記のとおりです。
http://medg.jp/mt/?p=3023
WHOコードにある10項目、その内容に驚かれた方も多いかと思います。日本ではほとんど順守されていないからです。私がよく経験することとしては、フォローアップミルクのこと。国から出されている指針(授乳・離乳の支援ガイド)では、フォローアップミルクは母乳や育児用ミルクの代替品ではなく、離乳食が順調に進んでいる場合には必要ないものとされていますが、今も「9か月からはフォローアップミルクに」という広告がなされています。実際9・10か月健診で、離乳食が十分に摂取できているのにフォローアップミルクに替えてしまっている方が必ずおられます。このような状況が長い間なぜ放置されたままなのか、よくわかりません。法制化が難しいとしても、少なくともこのような内容のものが、日本を含めた国際的な取り決めとして存在しているということを多くの人が知ることができ、その上でさまざまな選択ができる環境を整えていくことが必要ではないかと思うのです。(2015.1.7.)