「マタニティブルーズ」と「産後うつ病」

院長です。

先日お伝えした産前・産後支援員養成講座でお話しした内容から、「マタニティブルーズ」と「産後うつ病」に関することをお伝えしたいと思います。

マタニティブルーズは出産後の女性の15~35%が経験する一過性のうつ状態で、分娩後最初の1週間、特に産後3~5日が発症のピークといわれています。数日から2週間以内に自然と軽快するのが特徴です。

産後うつ病は出産後の女性の10~15%にみられ、産後に気分が沈み、日常の生活でそれまで楽しいと思えていたことが楽しいと思えなくなったり、物事に対する興味が持てなくなったりしてしまうことが1日中あり、また一定期間(だいたい2週間以上)続くもので他の精神疾患が否定されたものです。産後3か月以内に発症することが多いとされています。発症の背景要因として、うつ病の既往の他、パートナーからのサポート不足など育児環境要因による影響も大きいとされています。妊娠中から不安やうつの問題がおこっている場合も少なくないため、妊娠中からケアを行う必要があります。また、産後の母親のうつ症状は、子どもの感情的・社会的発達や行動面の発達に対して短期および長期予後ともに悪影響を及ぼす恐れがあります。加えて、産後うつ病に伴う自殺、ネグレクトなどの不適切な養育環境も、子どもの将来の問題の原因ともなり得ます。しかし、適切な介入を行うことで子ども予後を改善する可能性が指摘されているため、早期の発見および介入が大切とされています。

松岡先生によると、マタニティブルーズと産後うつ病は、1960年代に西欧で成立した概念で、1950年代から60年代にかけて西欧で出産が産科と精神科の両方から医療化されたということが原因ではないかとしています。それは妊娠・出産が家庭の中から、医療が扱うものとなり、産後の女性たちの精神的な落ち込みについて疾患や症状という概念で医療的な診断がなされたためではないかと考察し、さらに、儀礼や相互扶助といった文化的緩衝装置の中での出産から、安全性中心の出産へと変化を遂げると同時に、女性たちは伝統的な社会の中で得ていたさまざまな援助や保護から切り離されてしまったことによる影響ではないかとも述べています。 (松岡悦子:マタニティーブルーズと産後うつ病の文化的構築、国立民族学博物館調査報告 85:155-171、2009)

日本では、1950年頃より、安全性の観点から出産の場所が急速に家庭から施設へと移行し、1960年代には病院や診療所での出産が半数以上を占めるようになり、今や全体の99%以上となっています。加えて近年は、産科医療施設の減少により出産施設は集約化され、産後の入院期間が短縮化されています。そのため、産後の女性は体調の回復や育児技術の習得、特に母乳哺育のためのスキルを十分得る前に退院せざるをえない状況が生まれてきています。

このような状況は、「妊産婦の自殺の増加」や「児童虐待の増加」と無関係ではありません。次回は、この2つの問題について、データとともにお伝えしたいと思います。

(2023.12.10)