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予防接種感染症赤ちゃん
麻疹(はしか)の流行から赤ちゃんをどうやって守るか
院長です。
報道などでもご存知の通り、日本では麻疹(はしか)の感染者が急増しています。4月時点ですでに前年の年間患者数を上回り、再び注意が必要な状況となっています。これまでのところ患者報告数が多いのは東京都を中心とした関東圏ですが、ゴールデンウィークでの人の移動をきっかけに、流行地域の拡大も懸念されます。
麻疹は非常に感染力が強く、インフルエンザの約10倍とも言われます。免疫がない人の集団では、1人の感染者から10人以上に広がることもあり、空気感染するウイルスの中でも最も強力なものの一つです。
ワクチンの追加接種の必要性については、先月のブログでお伝えした通りです(2026.4.9のブログ麻疹の流行:ワクチンの追加接種は必要?)。今回は、『まだワクチン接種の対象とならない0歳の赤ちゃんをどう守るか』についてお伝えしたいと思います。
現代の赤ちゃんに生まれた免疫の問題
赤ちゃんは、生まれる前にお母さんから胎盤を通じて抗体(免疫)を受け取ります。これが生後しばらくの間、赤ちゃんを感染症から守ってくれることになります。
しかし近年、この仕組みに変化が起きています。
昔は多くの人が自然に麻疹にかかり、強く長く続く免疫を持っていました。そのため赤ちゃんにも十分な抗体が渡されていました。
一方、現代の親世代はワクチンで免疫を獲得しています。ワクチンは安全で重要ですが、自然感染に比べると抗体量がやや少なく、持続も短い傾向があります。
その結果、赤ちゃんの防御力は想像以上に早く低下し、生後6か月ごろには、多くの赤ちゃんが十分な防御力を失うと考えられています。
そして問題なのが、定期接種の開始が1歳以降であることです。つまり、「生後6か月〜1歳までの約半年間、赤ちゃんは強い感染症に対して“ほぼ無防備”の状態」になっているのです。
乳児の麻疹で本当に怖い合併症
麻疹というと、「高熱と発疹の病気」というイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし、乳児期の感染で最も怖いのは「SSPE(亜急性硬化性全脳炎)」という合併症です。これは、
- 麻疹ウイルスが脳の奥深くに潜伏感染
- 感染から数年〜10数年後に発症
- 脳に炎症が起こり、知能や運動機能が低下
- 最終的に死亡することが多い
という非常に重い病気です。特に1歳未満で感染した場合、発症リスクは大きく上昇し、「数百人に1人」という報告もあります。決して“稀だから安心”とは言えない数字です。
では、なぜ1歳までワクチンを待つのか?
ここで多くの保護者の方が疑問に思うのが、「そんなに危険なら、もっと早くワクチンを打てばいいのでは?」という点です。
実は、これには重要な理由があります。それが「ブランティング効果」です。
これは、「お母さんからもらった抗体が、赤ちゃん自身の免疫反応を弱めてしまう現象」です。早い時期にワクチンを打つと、
- 抗体が十分に作られない
- 長期的な免疫が弱くなる
可能性があります。つまり、「早く守る」ことと「長くしっかり守る」ことの間で難しいバランスがあるのです。
例外的に行われる「早期接種(MCV0)」
とはいえ、現実には待てない場面もあります。例えば、
- 流行地域への渡航
- 保育園での集団感染
- 濃厚接触
こうした場合には、生後6か月以降で「第0回接種(MCV0)」と呼ばれる早期接種が検討されます。
この接種は、抗体の産生は十分でなくても細胞性免疫(体の防御機構)はしっかり働くことが分かっており、一定の予防効果があります。ただし重要なポイントは、「この接種は“定期接種には数えない」ということです。つまり「1歳以降に改めて2回接種が必要」になります。
接種間隔にも注意が必要
早期接種を受けた場合、その後のワクチン間隔も重要です。研究では「 6か月以上の間隔をあける」ことで良好な免疫が得られるとされています。逆に、短すぎる間隔では、十分な免疫がつかない可能性があります。実際の判断は、流行状況や生活環境によって変わるため、かかりつけ医との相談が重要です。
最も大切なのは「2回接種の完了」
最も大事なポイントは、「早期接種を受けても安心せず、必ず定期接種(1歳+就学前)を完了すること」です。
社会を麻疹から守ってきたのは、95%以上という高いワクチン接種率による「集団免疫」です。逆にこれが崩れると、海外のように流行が再燃します。
赤ちゃんを守るのは、お母さんの抗体だけではなく、周囲の人すべての免疫です。麻疹(はしか)は「過去の病気」ではありません。そして、0歳児は最も守るべき存在です。一人ひとりの接種が、自分の子どもだけでなく、周りの赤ちゃんを守る力になります。