Allergy
アレルギー性疾患
アレルギーについて
アレルギーとは、「免疫の働きを介して引き起こされる、体にとって不都合な症状」のことです。小児のアレルギーは、下痢、嘔吐、腹痛、せき、呼吸困難、湿疹、蕁麻疹(じんましん)、鼻炎、結膜炎、発熱、頭痛、むくみ、など様々な症状で表れます。
よく見られるアレルギーには、食べ物がアレルゲン(アレルギー症状を引き起こす原因となるもの)となる食物アレルギー、ハウスダストなどの吸入性アレルゲンによって発症する気管支喘息、花粉などによって発症するアレルギー性鼻炎・結膜炎などがあります。一方で、成長とともに症状が改善・軽減していくことも多いのが小児アレルギーの特徴です。

アトピー性皮膚炎について
アトピー性皮膚炎とは、かゆみのある湿疹が悪くなったり改善したりをくり返す疾患で、患者さんの多くは「アトピー素因」をもちます。
アトピー素因とは、①家族あるいは患者さん自身が、気管支ぜん息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、あるいは複数に罹ったことがある ② IgE抗体ができやすい、ことをいいます。
診断基準は、①強いかゆみがあること、②特徴的な皮疹(湿疹)が「体の左右の同じような場所」にあらわれること(おでこ、目や口や耳の周り、首、手や足の関節など)、③乳児では2か月以上、その他では6か月以上、症状が改善したり悪化したりをくり返すこと、です。「痒くて、繰り返す」ことがポイントです。アトピー性皮膚炎は、多くは乳幼児期に発症して、小児の有病率はだいたい10%程度と考えられます。年齢とともに徐々に改善することが多いのですが、一部が成人のアトピー性皮膚炎に移行します。
症状

乳児期の皮疹は、頭や顔に始まり、次第に体や手足に広がる傾向があります。
頬、額、頭などに皮膚の乾燥と赤みが出ることからはじまり、皮膚症状が広がると、赤みは顔面全体に広がり、あご、脇の下、ひじやひざの裏にも症状が出ます。かゆみが生じてひっかくと、皮膚が傷つけられて浸出液(ジクジクとにじみ出てくる透明あるいはやや黄色っぽい液体)が出たり、かさぶたが付くこともあります。さらに、手や手首、足首などの乾燥しやすい部位や、服から出ている体の部位(腕、脚、ひじ、ひざ)などにも皮膚症状が出ます。皮疹が全身におよぶ場合には、体にも赤みが出て、それがつながって重症化することもあります。幼小児期になると、首や手足の関節に皮疹ができやすい傾向があります。強いかゆみを伴う皮疹が生じて、バリア機能が低下して普通なら感じないような刺激でかゆみが強くなって掻いてしまい、さらに皮疹を悪化させるという悪循環をたどることが多くなります。
小児アトピー性皮膚炎を
引き起こす要因
皮膚への刺激になる、ダニ、ホコリといったハウスダスト、化学物質、汚れ、汗、乾燥、紫外線などがアトピー性皮膚炎を引き起こしやすい要因です。ほかに、卵や牛乳といった食物が原因になることもあります。また、睡眠不足や心理的ストレス、過労などは免疫力を低下させるため、アトピー性皮膚炎を悪化させる要因と考えられています。
強いかゆみを伴うことが多く、ひっかいて皮膚を傷つけてしまうと肌のバリア機能が壊され、さらに症状が憎悪しやすくなります。特に小児はかゆみを我慢することがむずかしいため、かゆみ止めの薬を処方するなどして、なるべくひっかかないようにする対応も大切です
食物アレルギーと
アトピー性皮膚炎の関係

アトピー性皮膚炎と食物アレルギーは深く関係していて、アトピー性皮膚炎の重症度と食物アレルギーの発症率は相関する、というデータがあります。
アトピー性皮膚炎の場合、バリア機能が低下しているため、チリやホコリとなった食物が、皮膚から体内に入ってきやすくなっています。また、皮膚に炎症があるために、食物アレルギーの発症に関係するIgE抗体が産生されやすくなっています。
乳児期のアトピー性皮膚炎の治療が遅れると食物アレルギーになりやすい、と言えます。アトピー性皮膚炎の治療をきちんと行い、皮膚のバリア機能を高めて、炎症をコントロールすることが、食物アレルギーを予防することにつながる可能性があります。
日常のケア
スキンケア
きれいに(石けんで洗う)、そしてしっとりと(保湿)。石けんを十分に泡立ててから、できるだけ素手で優しく洗ってください。皮膚のバリア機能の破壊を助長する恐れのあるこすり過ぎを予防するためです。その後、ぬるま湯でよくすすいでください。
お風呂の後、出来るだけ早く(5~15分以内に)保湿剤を全身に塗ってください。軟膏やクリームは人差し指の先から第一関節まで( FTU:Finger tip unit )、ローションは1円玉大の量で、大人の手のひら2枚分の面積に塗れます。
スキンケアは1日2回が基本です。お風呂のとき以外に、お湯で濡らしたタオルで押さえ拭きし、その後に保湿剤を塗る機会を設けてください。
アトピー性皮膚炎の治療
治療は「症状がないかあっても軽く、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達して維持すること」、「軽い症状は続くけれども急激に悪化することはまれで、悪化しても症状が持続しないこと」を目標として進められます。
- ステロイド外用薬
- アトピー性皮膚炎の治療の基本はステロイド外用薬です。ステロイド外用薬による治療のポイントは、触って「ツルツル、スベスベ」になるまで治療を継続することです。適切な塗布量はFTU(Finger tip unit、詳しくはスキンケアの説明を参照)で、たっぷりとのせるように塗ることが重要です。副作用を出さないためにも、止め方が重要です。定期的に状態を確認しながら、ゆっくりと減量していくことが必要です。
- 抗炎症外用薬
- 免疫を調整する「ステロイドではない外用薬」です。ステロイドを長期間塗りにくい顔などの部位などにも使用しやすいという利点があります。ステロイド外用薬で症状が改善した後に状態を維持するのに使用したり、軽い症状の皮疹であれば、最初から用いることもできます。
- 保湿剤
- アトピー性皮膚炎では、皮膚のバリア機能が正常に働いていない事が多くあるため、乾燥肌になります。
肌が乾燥しかゆみが出てくるとつい、ひっかいてしまい、炎症が起こり、さらに皮膚バリアが壊れます。
この悪循環を発生させないためにも保湿はとても重要です。 - 全身療法
- 皮下注射で投与する生物学的製剤と、内服薬の経口JAK阻害薬があります。
ステロイド軟膏の副作用
- うぶ毛が生える
- 塗ったところにニキビができやすくなる
- 同じ場所に塗り続けると血管がやや目立つことがある
- 同じ場所に塗り続けると皮膚がややうすくなることがある
- 皮膚がうすくなりすぎて皮膚線条(妊娠線のような皮膚)ができることがある
※①~④の副作用はステロイド軟膏の使用量が少なくなると回復します。皮膚線条は同じ場所に数年間毎日塗り続けると発生し元に戻りません。
ステロイド軟膏は、適切な使用をする限り安全な薬であり、乳幼児に普段処方されることの多いステロイド軟膏で、上記のような副作用が起こることはほとんどありません。
医師の指示通りに十分量を使用することが効果を得る上でも、副作用を予防する上でも重要なことです。

食物アレルギーについて
ある特定の食べ物を食べたり、触れたりした後にアレルギー反応があらわれる疾患です。食物アレルギーの原因となる物質であるアレルゲンは、主に食べ物に含まれるタンパク質です。乳児期には鶏卵・牛乳・小麦が、幼児期になると鶏卵・ナッツ類・ピーナッツ・魚卵などが、学童期以降は甲殻類・果物・魚卵・ナッツ類・小麦などのように、年齢が変わるにつれて変わっていきます。子どもの頃の食物アレルギーは、多くが成長に伴い徐々に原因食物が食べられるようになります(耐性獲得)。一方で、学童や大人の食物アレルギーは、耐性獲得しにくく、原因食品の継続的な除去が必要なことが多いと考えられています。
食物アレルギーの種類と症状
主な病型は、以下の2つです。
食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎
- 頻度の高い食物
- 鶏卵、牛乳、小麦、大豆 など
- 主な症状
- 生後間もなく~3・4か月に、顔から始まる湿疹が徐々に体に広がります。
食物が湿疹の増悪に関与し、スキンケアや十分な外用療法を行っても、原因食物を除去しないと2ヶ月以上改善しません。
すべての乳児アトピー性皮膚炎に食物が関与しているわけではありません。皮疹が消失した後には、即時型症状に移行することも多いとされています。
即時型症状
- 頻度の高い食物
- 鶏卵、牛乳、小麦、そば、魚卵、ピーナッツ、ナッツ類など
- 主な症状
- 食物アレルギーの最も典型的なタイプ。原因となる食物を摂取後、通常2時間以内にアレルギー反応による症状を示すことが多い。
- 皮膚症状:かゆみ、じんましん、赤み
- 粘膜症状(眼症状):目の充血・腫れ、かゆみ、流涙、まぶたの腫れ
- 粘膜症状(鼻症状):くしゃみ、鼻水、鼻づまり
- 粘膜症状(口腔粘膜症状):口・唇・舌の違和感・腫れ、喉の痒み、イガイガ感
- 消化器症状:腹痛、嘔吐、下痢、血便
- 呼吸器症状:喉が締め付けられる感覚、声嗄れ、咳、喘息、呼吸困難
- 全身性症状:アナフィラキシーショック(頻脈、血圧低下、意識障害などが起こる)
特殊な食物アレルギー
(1)食物依存性運動誘発アナフィラキシ―
ある特定の食べ物を食べただけでは症状は起きずに、特定の食べ物を食べたあとに運動をするとアナフィラキシー症状があらわれるという特徴があります。生活環境や体調、ストレスなどの変化も関与すると考えられています。食事をして30分~4時間後に運動をすると、呼吸困難やめまい、吐き気・嘔吐、じんましんなど、アナフィラキシーの症状が出現します。
(2)口腔アレルギー症候群(OAS)
ある特定の果物や野菜などを食べると口周囲の発赤や口腔内の腫れ、のどの痛みや違和感などが生じる病気です。症状があらわれても、多くは食後しばらくすると自然に軽快します。口唇・口腔・咽頭粘膜におけるIgE抗体を介した即時型アレルギー症状を呈する病型です。花粉‐食物アレルギー症候群では、花粉症の人が特定の食べ物(果物や野菜が多い)を摂取したときにOASの症状が現れることがあります。
食物アレルギーの診断
原因の食べ物を特定するには、実際に食べた食品の内容を確認し、血液検査で特異的IgE抗体検査によって確認することで推測することができます。確定診断をするためには、病院で実際にその食品をごくわずかの量を食べてみて症状があらわれるかどうかを確認する「食物経口負荷試験」という検査が必要です。食物経口負荷試験は、時には重篤な症状が出現することもあるため、当院では詳しい問診と血液検査の結果で、食物アレルギーかどうかの判断を行っています。
食物アレルギーの管理・治療
原則は「正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去」です。食べると症状が誘発される食物だけを除去します。原因食物でも、症状が誘発されない“食べられる範囲” までは積極的に食べることが望ましいとされています。特に、鶏卵・牛乳・小麦・大豆などが原因の乳幼児期の食物アレルギーは耐性獲得する可能性が高いので、食物除去を最小限にして、可能な範囲で原因食物を摂取してもらいます。一方で、甲殻類・そば・ナッツ類などを原因とする食物アレルギーは耐性獲得しにくいとされています。
乳児アトピー性皮膚炎の治療は、ステロイド外用を含めたスキンケアが基本です(詳しくは「アトピー性皮膚炎」の項をご覧ください)。即時型症状の場合、軽症であれば経過観察で症状は消失しますが、多くの場合は薬物の投与が必要になりますので、すみやかに医療機関を受診していください。

気管支喘息について
呼吸の際にヒューヒューゼイゼイという苦しそうな音がする喘鳴を起こし、呼吸困難になる喘息発作を繰り返し起こす疾患です。空気の通り道である気道に炎症があり、気道が腫れることなどにより狭くなることで喘息発作を起こします。こどもの気道はもともと狭く、風邪をはじめとしたのどの感染症でも喘鳴を起こすことがあります。ヒューヒューゼイゼイという呼吸音、息苦しさを訴える、呼吸しにくそうな様子があった場合には、気道の状態をしっかり確認することが重要です。
症状

典型的な症状は、喘鳴(「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音)が生じ、それによって咳が出たりすることで呼吸するのが苦しくなります。
喘息症状が強くなると、特に息を吐きにくくなります。喘息は、特に夜から朝方にかけて悪化しやすく、睡眠中に症状があらわれるときは、息を吸うときに胸がへこむ(陥没呼吸)ことや、寝具の上に座り込む(起坐呼吸)ことがあります。
治療について
喘息発作時の治療
気管支拡張薬の吸入:喘息の発作で狭くなった気道を拡げる薬を吸入します。症状が一時的によくなりますが、この治療では気道のアレルギー性の炎症を抑えることができません。
気道のアレルギー性の炎症をしずめる
治療(長期管理薬)
普段発作がないときにも治療を継続し、気道のアレルギー性の炎症をしずめることで、喘息発作を起きにくくします。喘息の症状がない状態を維持して日常生活が普通にできることを目標に治療を進めます。
重症度と年齢に応じて、下記のお薬を使用します。
- 吸入ステロイド薬:炎症をしずめる薬でいちばん効果があるのがステロイド薬で、治療ではステロイド薬を粉・霧の状態にして吸い込みます。吸入にすることで、内服するときに比べて副作用を大幅に減らすことができます。全身性の副作用はほとんどありません。
- ロイコトリエン受容体拮抗薬:アレルギー性の炎症をしずめて、気管支を収縮させる物質ができるのをおさえます。
- 気管支拡張薬:気管支を拡げる作用をもつ薬で、内服するものと、ステロイド剤と一緒に吸入するものがあります。
- 経口ステロイド薬:副作用を避けるために短期間の使用を原則として、それでもコントロールが得られない場合は必要最小量を維持量として使用されます。
室内環境整備

気管支喘息の発症には、ダニやホコリなどのアレルゲンや感染、受動喫煙、大気汚染などの環境因子が影響すると言われています。
可能な限り、環境整備も行いましょう。

アレルギー性鼻炎について
アレルギー性鼻炎は、ダニやホコリなどが原因で1年を通して鼻炎症状が認められる「通年性アレルギー性鼻炎」と、スギやヒノキ、雑草などの花粉が原因で、花粉の飛散時期だけに鼻炎症状が認められる「季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)」に分けられます。通年性アレルギー性鼻炎では、ペットが原因となる場合もあります。 主症状は、くしゃみ、透明な水溶性の鼻水、鼻づまりです。
アレルギー性鼻炎の種類

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通年性アレルギー性鼻炎
季節に関係なく存在する物質によっておこるアレルギーです。代表的な物質としては、ダニ、ダニの死骸やフケなども混じったハウスダスト、ペットの毛などです。
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季節性アレルギー性鼻炎
アレルゲンとなる物質が一年のうちある季節だけに限って飛散するなどの状況で起こるのが季節性アレルギーで、鼻にそれらの物質が入って炎症を起こし、くしゃみ、鼻水などの症状があらわれます。代表的なものは花粉症で、春先から梅雨前ぐらいまで飛来するスギ・ヒノキ花粉が有名ですが、その他にもイネ科の植物、シラカンバ、ブタクサといった花粉がアレルゲンとなります。
症状

アレルギー性鼻炎の主症状は、くしゃみ、鼻水、鼻づまり(鼻閉)です。鼻水は、粘り気が少なくさらさらしています。鼻の症状だけではなく、目の痒みや充血、のどがイガイガする、耳の痒みなどの症状が起こることも多く、また空咳や声がかすれる嗄声などが起こることもあります。
診断

典型的な症状(くしゃみ、鼻水、鼻閉)があり、血液でのアレルゲンの検査で中等度以上の陽性であれば、アレルギー性鼻炎と診断します。
治療

薬物療法では、まず鼻水を抑える抗ヒスタミン薬の内服を行います。それだけでは改善が不十分な場合に、点鼻ステロイド薬、鼻づまりを改善する作用があるロイコトリエン受容体拮抗薬などが用いられます。抗ヒスタミン薬は眠気などの副作用がありますが、最近は眠気の出にくい薬もあります。
アレルゲン免疫療法は、原因となるアレルゲンを少量から投与することで、体のアレルギー反応を弱める治療法です。皮下免疫療法(SCIT)と舌下免疫療法(SLIT)があり、現在では主としてSLITが行われています。ダニとスギ花粉が日本では治療を受けることができます。SLITの適応は、ダニ、スギによるアレルギー性鼻炎です。治療は数年以上必要で根気のいる治療ですが、適応であれば重症度に関わらず導入してよい治療法だと考えられます。導入にあたっては、薬物療法である程度症状がコントロールできている必要があります。気管支喘息がある場合は、しっかりと症状をコントロールしておくことが重要です。