Policy
くわはらこどもクリニックポリシー

小児科医、
そして新生児科医として
わたしは、大学を卒業し小児科医として3年間勤務した後、新生児科医としてNICU(新生児集中治療室)に勤務しました。NICUに入院する赤ちゃんの多くは長期の入院が必要で、その間母子分離を余儀なくされます。わたしがNICUに勤務していた当時、この母子分離が、その後の母子関係、親子関係、そして赤ちゃんの成長・発達に悪影響を及ぼすことが明らかとなり、入院中からの母子接触、いわゆるカンガルーケアが導入されるなど環境の改善が始まっていました。ところが産科病棟では、元気に生まれた赤ちゃんが夜には新生児室に集められ、たとえ赤ちゃんが泣いていても、忙しいスタッフはその対応もままならない状況が続いていました。日本で生まれる赤ちゃんの多くがこのような扱いを受けているのだとしたら、これをこのまま放置していてよいのだろうか、そういう思いが頭をもたげてきました。普通のお産に自分も関わり、このような状況を何とか改善できないものかと考えるようになりました。
小児科と産婦人科の協同開業でみえてきたもの

ちょうどその頃、同期の産婦人科医が開業を考えていました。彼とお互いの考えを話すうちに、一緒に開業する話が持ち上がりました。そして2002年に、小児科と産婦人科が一体となったクリニックがスタートすることになりました。
クリニックでのお産は、分娩台でのお産ではなく、畳のスペースで自由な姿勢で行うお産、フリースタイル出産でした。そしてお母さんと赤ちゃんは、入院中は一緒に過ごす母児同室を行っていました。わたしは開業当初から、一般小児科診療に加えて、すべてのお産に立ち会いました。
入院中は毎日、赤ちゃんの診察をして状態を確認し、お母さんとお話ししました。退院後の赤ちゃんの健診も行い、成長を見守りました。たくさんの赤ちゃんとお母さん、そしてご家族と触れ合う機会に恵まれて、どのようなお産であったかが、その後の母と子の関係、そして子どもの成長にも大きく影響していることを実感しました。そのような経験から、わたしは、母と子にとって理想的なお産を実現したいと考えるようになりました。
助産所を併設した新たな小児科クリニックの誕生

本来、お産は生理的な営みです。命を繋ぐという、太古の昔から繰り返され連綿と受け継がれてきたものです。人は一生の中で、生まれるときにいちばん死に近づくと言われます。命の誕生は神秘的であると同時に、母子ともに命がけの行為であるという側面も併せ持っています。お産で多くの母親と赤ちゃんの命が失われてきたことも事実であり、医療の力によりそれらの問題の多くは解決されてきました。お産が医療の対象となった現代においては、命の安全が最優先されます。新生児科医の頃は、それは当然の、そして最良のものだと考えていました。
産婦人科医と立ち上げたクリニックでのお産で、わたしは母と子の自然の営みを目の当たりにすることになりました。ほんの数分前までお母さんのお腹の中にいた赤ちゃんが、お母さんの胸に抱かれ、穏やかに呼吸し、おっぱいを力強く吸う。それは、お母さんと赤ちゃんが、自らが持つ力を発揮できた証であり、その実現には、お産を介助する助産師の役割がとても大きいことを実感しました。このようなお産に魅せられたわたしは、産婦人科医との協同開業を解消し、助産所を併設した小児科クリニックを新たに開設しました。
助産所でのお産から学んだ小児科医の役割

助産所では、妊娠中から一貫して一人の助産師がお母さんとかかわることが最大の特徴です。妊娠中に結ばれた助産師とお母さんとの絆が、お母さんのもつ産む力を最大限に引き出し、生理学的プロセスによるお産を可能にしています。安心感に包まれたお母さんは、自分の体の変化だけではなく、生まれてくる赤ちゃんにも気を配りながらお産に臨みます。このような環境で生まれた赤ちゃんは、お母さんと離れずに居ることでスムーズに胎外生活に適応し、安定した状態でお母さんとの関係を築き始めます。お母さんには産む力があり、赤ちゃんには生まれてくる力があるということを信じ、その力を最大限に引き出すのが助産師の役割であり、助産所でのお産は、そのようなお産です。
お母さんが、自分が産んだと感じ自らが持つ産む力を確信できることは、わが子の生まれる力を感じ、育つ力を信じることに繋がります。その経験は、その後の育児の中で迎えるいくつもの困難を乗り越えるときの心の支えとなり、「大丈夫だよ」と背中を押してくれるのだろうと思います。
当院でのお産を通して、どんなに医療が進歩しても、届かないところがあると感じています。次の世代に命を繋ぐための絶妙な仕組みの存在を、お産を通して感じるのです。われわれ医療者には、医療の力で命を救うことだけではなく、このようなお産を護りお母さんを支え護ることで、子どもたちの育ちを保障する役割があると思っています。
くわはらこどもクリニック 桑原 勲
院長プロフィール

院長
小児科専門医出生前コンサルタント小児科医
桑原 勲
1989年に奈良県立医科大学卒業。一般小児科に従事した後、1992年より静岡県立こども病院新生児科、奈良県立医科大学付属病院、奈良県立奈良病院で新生児医療に従事。2002年にくわはらキッズクリニックを開業。創愛クリニック小児科を経て、2012年10月にくわはらこどもクリニック開設。
所属学会
- 日本小児科学会
- 日本小児アレルギー学会
- 日本小児科医会
- 日本赤ちゃん学会
- 日本新生児成育医学会
- 日本乳幼児精神保健学会
- 日本周産期・新生児医学会