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精華町健康講演会でお話ししました:デジタルメディアと子供の育ち②
院長です。
今回は、まず「令和6年度全国学⼒・学習状況調査」について触れたいと思います。この結果の一部は、報道でご存知の方もおられると思います。今回の調査では、小学校国語・算数、中学校国語・英語については、3年前の調査と比較してスコアの低下が見られ、中学校数学については、スコアの変化は見られませんでした。この学力の低下の原因のひとつとして、スマートホンの利用拡大があげられています。スマートホンの利用時間が長くなって一方で、勉強時間が短くなったことが原因ではないか、という分析です。果たしてそれは、正しいのでしょうか。
スマートホンの利用と成績
スマートホンの利用と成績との関係を調べた調査があります(榊浩平:スマホの脳・学習への影響と予防、カレントテラピー 41(11):993-998, 2023.)。小学5年生~中学3年生36,603人を対象に、一日あたりのスマホ使用時間別に「1時間以上」「1時間未満」の2群へ分割し、それぞれ勉強時間・睡眠時間別の偏差値を算出したものです。平均の偏差値は、スマホ使用「1時間未満」の子供たちは57.2であるのに対し、「1時間以上」の子供たちは52.6と低くなっていました。注目すべきは、たとえ同じ時間勉強をして睡眠をとっていたとしても、一日1時間以上のスマホ使用が成績に悪影響を及ぼしているという点です。つまり、スマホをたくさん使う子供たちは勉強をしないから、あるいは寝不足だから成績が低いというわけではないということです。
ながら勉強と成績
同じ論文に、「ながら勉強」と学力の関係についての調査結果も示されていました。勉強中にスマホを使用する子供としない子供の成績を比較したものです。勉強時間別に偏差値を比較したところ、「ながら勉強」をしている子どもたちの成績は、勉強時間にかかわらず「ながら勉強」をしない子供たちよりも明らかに成績が低くなっていました。スマホをいじりながらダラダラと3時間勉強をしたとしても、実質30分勉強をした程度の学習効果しか得られないことが分かったのです。人間の脳は一度にひとつのことにしか集中できないという性質があり、いわゆるマルチタスクは同時に複数の課題を処理しているようで、実際にはそれぞれの課題への注意を切り替えているタスクスイッチングに過ぎないのです。注意を切り替えるためには余計な労力(スイッチングコスト)が必要であり、タスクスイッチングによって課題の成績が低下することが知られています。勉強中に、勉強以外の目的でスマホを使用する「ながら勉強」をすると、スイッチングコストによって学習効率が低下してしまうのです。勉強をするときには、勉強だけに集中できる環境を整えることが重要なのです。
このようにみてくると、昨年の全国学力・学習状況調査の結果として学力の低下傾向がみられた原因を、「勉強時間が短くなったこと」、と単純に関連付けることはできないようです。日常生活におけるスマホ等のデジタルメディアの使い方が、大きく影響しているのではないかと思います。
デジタル教科書
次にデジタル教科書について触れたいと思います。日本ではデジタル教科書が、正式な教科書と位置付けられ2030年度から導入される方向で話が進んでいるようです。
デジタルと紙学習の比較を、大学生(医学、薬学、看護学生)に行った調査があります。それによると、「情報の理解」については両者に差はありませんでしたが、「情報の記憶」と「集中しやすさ」については、70%以上の学生が「紙の方が良い」と答え、デジタルが良いと答えたのは約6%でした。これまでの比較研究でも同様の結果が示されており、「記憶」と「集中」において紙の方が良い、つまり「深く学ぶなら紙が良い」ということです。
ここで「Google効果」、「デジタル性健忘」についてお伝えしたいと思います。
「Google効果」とは、簡単に検索できる環境によって、何かを覚えるよりも検索する方が早いと感じ、情報そのものを記憶しにくくなり、その代わりに「どこでその情報を探せばいいか」を記憶する傾向が強くなるという心理的・認知的現象を指します。知識を短期的に覚えても、検索可能だと分かっていると、記憶への定着率が下がるのです。
「デジタル性健忘」とは、スマートホンやコンピューターなどのデジタル機器に情報を頼ることにより、記憶能力が低下する現象を指します。「Google効果」と関連性のある現象ですが、より広範囲にわたる「デジタル依存による記憶力の変化」に焦点を当てた概念です。
早くからデジタル教科書が導入された北欧諸国では、現在、教科書のデジタル化は国家的失敗だとして、紙の教科書への回帰が進んでいます。デジタル教科書を導入してから、学力の低下が明らかになったことが原因のようです。
まとめ
スマートホンを中心としたデジタルメディアが私たちの生活に欠かせないものとなったことで、知らず知らずのうちに私たちの脳活動に変化が起こっています。その中で、「記憶」と「集中」において、大きなマイナスの影響があることが明らかとなってきており、これは子供たちの学習にも大きな影響を及ぼすことになります。このような側面にも目を向けて、デジタルメディアの利用の仕方を考えていく必要があるのだと思います。
次回は、「インターネット・ゲーム依存」を中心にお伝えします。