桑原です。前回は授乳に関係するホルモンのお話でした。今回は授乳中の母乳の成分の変化について。
母乳は二つのホルモン、プロラクチンとオキシトシンが同時に働くことにより分泌されることは、前回述べたとおりです。そしてこの二つのホルモンは、赤ちゃんがお母さんのおっぱいを吸うことにより分泌されます。したがって、母乳が作られるのは赤ちゃんがおっぱいを吸っている間であり、赤ちゃんがおっぱいを吸い始めてから作られ始めることになります。授乳と授乳の間の時間に作られるわけではないので、授乳間隔と母乳の分泌量は比例しません。
授乳のはじめは、非栄養的吸啜もしくは呼び出し吸啜と呼ばれるクチュクチュクチュとした1秒間に数回のすばやい吸い方をし、乳房に母乳を分泌させる刺激を与え射乳反射を起こさせます。射乳反射が起こって母乳が出はじめると1秒に1、2回のゆっくりしたリズムで吸啜します。これを栄養的吸啜といい、ゴクンゴクンという嚥下の音を確認できれば、母乳を飲んでいると判断できます。
飲み始めの母乳(前乳)は薄く、だんだん濃くなっていきます。その原因は脂肪濃度の変化で、飲み始めに比べて飲み終わりのころの母乳(後乳)には、3~5倍の濃度の脂肪が含まれています。赤ちゃんにとって飲み始めのおっぱいは薄くて水っぽく、しだいに濃くなり、脂肪分たっぷりのクリーミーなおっぱいに変化するということになります。おとなが食べる料理のフルコースと同じように、赤ちゃんも薄味から、クリームの濃いおっぱいを飲んで終わることになるのです。生まれた赤ちゃんが最初に口にするのが母乳であり、その出発点でデリケートな風味の変化を学ぶことになります。これに対して人工栄養だと、哺乳びんのゴムの乳首からドクドクと出るミルクの味は単一で変化はありません。両者のあいだにはおのずと大きな違いが出てきます。
このような1回の授乳における母乳の変化を知っておくことは、授乳する上でとても大切なことです。後乳の方が、脂肪分が多くカロリーの高い母乳になるわけですから、片方のおっぱいで最後までしっかり飲みとってもらうことが大切です。たとえばお母さんが時間で区切ってしまって、授乳の途中で反対側のおっぱいに替えてしまうと、前乳から後乳に変わる前に反対側のおっぱいの授乳を開始することになり、場合によっては前乳のみを飲んでおしまいということになりかねません。こうして後乳を十分に飲めていないと、いくらたくさんの母乳を飲んでいても体重が増えないことがあるのです。赤ちゃんがリズミカルにゴクゴクと飲んでいる様子がある間は、片方のおっぱいを飲ませてあげてください。片方の授乳で満足する場合は、次の授乳のときに反対側から飲ませてあげてください。
(ただし、生まれて間もない、まだ母乳の分泌が始まっていない時期は、1回の授乳で両方のおっぱいを吸ってもらい、より多くの刺激をもらうようにしましょう。また、母乳の分泌が始まっておっぱいの張りが強くなり痛みを伴うような時期は、赤ちゃんに飲みとってもらわないと症状が解決しませんから、その間は1回の授乳で両方のおっぱいを飲んでもらうことを優先してください。)