日本産婦人科感染症学会から、「新型コロナウイルス感染症について 妊娠中ならびに妊娠を希望される方へ」と題するコメントが出されました。以下に全文を掲載させていただきますので、日常の予防策の参考にしていただければと思います。
(以下、日本産婦人科感染症学会のホームページより引用)
新型コロナウイルス感染症について
妊娠中ならびに妊娠を希望される⽅へ
⽇本産婦⼈科感染症学会
令和2 年2 ⽉1 ⽇
新型コロナウイルスとは?
2019 年12 ⽉30 ⽇に中国保健機関が公表した湖北省の武漢の「原因不明の肺炎」は、翌2020 年1 ⽉7 ⽇には原因が新種のコロナウイルス (2019-nCoV)と特定され、遺伝⼦も同定されました。当初は動物からヒトへの感染のみと考えられていましたが、武漢市内でヒトーヒト感染が報告され、1 ⽉31 ⽇21 時の時点における中国政府の公式発表では、中国
国内の患者は9692 ⼈, 死亡者213 ⼈とされています。同⽇、WHO が国際的な公衆衛⽣上の緊急事態を宣⾔し、わが国でも湖北省からの⾶⾏機乗り⼊れ禁⽌、中国への旅⾏⾃粛などの⽅針が打ち出されています。
コロナウイルスとは、脂質の膜であるエンベロープに覆われた⼀本鎖(+)RNA ウイルスで、普通感冒を起こす4 種類のウイルスHCoV-229E、HCoV-OC43,HCoV-NL63、HCoV-HKU1 に加えて、2003 年に流⾏した重症急性呼吸器症候群 (Severe Acute Respiratory Syndrome, SARS) の病原体SARS-CoV, 2012 年に流⾏した中東呼吸器症候群(Middle East Respiratory Syndrome, MERS )のMERS-CoV の6 種類が知られています。今回のウイルスはこれら過去に報告されたウイルスとは遺伝⼦構造が異なっておりコウモリやヘビなどの動物からヒトへの感染性を獲得し、さらにヒトからヒトへの感染性を獲得したものと考えられます。いずれのウイルスも有効なワクチンや抗ウイルス薬はありません。
妊産婦、妊娠を希望する⽅へのアドバイス
H1N1 インフルエンザA2009 では妊婦における重症化や死亡率の増加が報告され,2016年のジカ熱では妊娠中の感染により⼩頭症など重篤な児の先天性障害を来すことが報告されています。しかし、新型コロナウイルスでは感染者数の最も多い中国湖北省でも、現時点で妊婦における重症化や胎児障害の報告はありません。しかし、⼀般的に、妊婦さんの肺炎は横隔膜が持ち上がり、うっ⾎しやすいことから重症化する可能性があります。妊婦さんは特に⼈混みを避ける,マスクをかける、こまめに⼿洗いするなどの注意が必要です。
医療機関にはコロナウイルス感染以外にも、インフルエンザをはじめとする感染症の患者さんがおいでになりますので、⽇本産婦⼈科感染症学会では妊婦健診と発熱外来,旅⾏者外来などの待合室や動線の分離,呼吸器症状のある⽅へのマスク着⽤を提唱しています。
⾝近にできる予防
外出後や⾷事前などこまめに流⽔と⽯鹸で⼿洗いをしてください。このウイルスにはアルコールなどの消毒薬(アルコールスプレーやアルコールジェルなど)が有効です。発熱や咳などの症状がある⼈との不必要な接触は避けましょう。薬局や薬店(ドラッグストア)などで購⼊できるマスク(サージカルマスク)は⾶沫感染をある程度防ぐことはできます。ま
た、マスクをすることで、⼿指を不⽤意に⼝や⿐にもっていかないという効果がありますが、空気中のウイルス粒⼦は花粉や細菌に⽐べてはるかに⼩さく、またマスクの周辺から⼊り込むことがありますので過信は禁物です。マスクをかけていても⿐を出したり、⼝のまわりを開けたりすると何の意味もありません。マスクは使い捨てで1 ⽇に数回取り換える⽅が有効です。⾃然宿主動物はまだ不明ですので野⽣動物との接触は避け、⾁や卵は良く加熱してください。家庭⽤の空気清浄機や特定の⾷べ物、サプリメントなどによる予防は有効性が確認されていません。現時点では予防接種はありません。
新型コロナウイルス感染が⼼配なときは
2020 年1 ⽉31 ⽇の時点では、⽇本国内で⼤規模な⼆次感染、三次感染は発⽣しておらず、ご本⼈や家族が中国から帰国(来⽇)した,あるいは⾝近に確定診断された患者さんがい
るという場合以外は、新型コロナウイルス感染の可能性は低いと思われます。むしろインフルエンザやマイコプラズマなど他の病原体が原因の肺炎にかかる可能性の⽅が⾼いので
すが、症状だけでは区別がつきません。新型コロナウイルス感染を確定するには、医療機関を受診してウイルス遺伝⼦を検出する⽅法で診断を受けることが必要です。しかしイン
フルエンザのようにその場では結果が出ず、また感染症診療に対応できない病院・医院もありますので、来院前に受診先と保健所に電話でご相談ください。2 ⽉1 ⽇に前倒し施⾏される感染症法の特定感染症に指定されていますので適切な医療機関を紹介することができます。仮に新型コロナウイルス感染であっても、現時点での死亡率はSARS やMERS よりもはるかに低く、患者さんが多い中国でも、現時点では妊婦さんの死亡報告はありませんので過剰な⼼配は不要です。しかし、⼀般的に妊婦さんの肺炎は重症化のみならず、胎児に影響する恐れもありますので、⺟児の健康を守るためには適切な治療と対応が必要です。
我々産婦⼈科医はお⺟さんと⾚ちゃんを守る⽴場で、適切にサポートいたします。
情報の収集について
感染症流⾏時には様々なデマが発⽣します。特にTwitter などのSNS により不確かな情報が拡散しがちですが、政府や国際機関、感染症を専⾨とする学会のホームページなど信頼できる情報をもとに⾏動してください。情報は随時アップデートします。
1. 厚⽣労働省:新型コロナウイルスに関するQ&A (英語、中国語、韓国語対応あり)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html
2. 国⽴感染症研究所:コロナウイルスとは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/9303-coronavirus.html
3. 国⽴感染症研究所:感染症疫学センター
https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-idsc.html
4. CDC(英語:English)
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-nCoV/guidance-hcp.html
5. ⽇本感染症学会:新型コロナウイルス感染症
http://www.kansensho.or.jp/modules/topics/index.php?content_id=31
⽂責
⽇本産婦⼈科感染症学会
早川 智, 相澤(⼩峯)志保⼦(⽇本⼤学医学部病態病理学系微⽣物学分野)
須崎 愛(⽇本⼤学病院総合診療科)
(引用、ここまで)