院長です。
子どもの新型コロナウイルス感染症例の報告が増えていることは、前日のブログでも触れた通りです。今日は、子どもたちの新型コロナワクチン接種について考えたいと思います。
先日、日本小児科学会が発表した『「データベースを用いた国内発症小児 Coronavirus Disease2019(COVID-19) 症例の 臨床経過に関する検討」の中間報告』の内容を、そこからのデータを引用してお伝えします。2020年2月1日~2021年6月30日にこの調査に報告された国内小児 COVID-19症例(2,319例)の感染源は70%が家族内感染であり、学校での感染、幼稚園・保育所での感染はそれぞれ6%に留まっていました(図1)。一方で、2021年7月1日~8月17日に報告された症例(331例)においては、家族内感染、学校での感染はそれぞれ72%、4%で大きな変化を認めなかったものの、幼稚園・保育所での感染は9%に増加していました(図2)。さらに両期間の保育所における感染源の内訳を評価すると、2020年2月1日~2021年6月30日においては小児同士の感染は28.2%、2021年7月1日~8月17日においては38.7%でしたが、有意差は認めませんでした(図3)。このデータからも分かるように、子どもへの感染経路は、大人から子どもへ、が中心であることに変わりはありません。
新型コロナワクチンは、現在、12歳以上が接種対象となっています。では、接種したほうが良いのでしょうか。
新型コロナワクチンを接種するメリットとして挙げられているのは、下記のようなものです。
①新型コロナウイルス感染症に対する高い予防効果が期待できる。
(ワクチン接種後の抗体価は16~25歳にくらべ12~15歳の方が高かったという報告がある。)
②自分自身が免疫を持つことが周囲の人を守ることにつながり、流行を抑えることにつながる。
一方で下記のようなデメリットも指摘されています。
①成人と同程度の頻度で、副反応がみられる。接種した同日から翌日にかけて、8~9割の人に接種した腕の痛みや重み、5~6割の人に倦怠感や頭痛、2~3割の人に悪寒や筋肉痛、2割程度の人に38℃以上の発熱がみられると報告されている。いずれの症状もほとんどの場合は2~3日で軽快する。
②まれに、接種直後にアナフィラキシーという重度のアレルギー反応が起こることがある。
③まれに、主に若年の男性においてワクチン接種数日以内に心筋炎が発生することが報告されている。発症した場合は入院が必要になるが、ほとんどは軽症であるとされている
新型コロナウイルスに感染した場合、子どもは大人と比べて重症化しにくいことが分かっています。厚生労働省の発表資料によると、子どもの重症化リスクは、30歳代を1とすると、10歳未満は0.5倍、10歳代は0.2倍とされています。日本国内では20歳未満の新型コロナウイルス感染者で亡くなった方はいませんが、海外では報告例があり、子どもであっても重症化しないわけではありません。また、・肥満、・遺伝性疾患、・神経障害、・遺伝性代謝障害、・鎌状赤血球症、・先天性心疾患、・糖尿病、・慢性腎臓病、・慢性肺疾患、・悪性腫瘍や免疫抑制薬による免疫抑制状態、などの持病のある子どもでは重症化リスクが高いとされています。感染すれば、大人よりも頻度は低いのですが子どもでも後遺症の報告もあります。
子どもへの新型コロナワクチンの有効性や安全性に関する海外からの情報によると、他の接種年齢群と同様の高い予防効果が期待できます。一方で、ワクチン接種後の副反応の多くは数日で自然軽快することが分かっています。したがって実際に新型コロナウイルスに罹患した場合のデメリットよりもワクチンを接種するメリットが上回ると考えられ、12歳以上の健康な子どもへの接種は十分に意義があると思います。
新型コロナウイルスのデルタ株が広がり子どもの感染例の報告が増えていますが、「子どもから子ども」「子どもから大人」への感染よりも「大人から子ども」への感染の方が起こりやすいことは変わりありません。子どもへの新型コロナワクチン接種を考えるためには、まず周りの大人がワクチン接種を終えていることが前提です。その上で、これまで述べてきたような接種のメリットとデメリットを、お子さん自身とご両親ともに理解し検討していただきたいと思います。わたし個人の考えとしては、新型コロナウイルスの感染拡大が始まって1年半以上が経った今の状況を考えると、子どもたちの生活が少しでも早く元の日常に近づくために、接種をしていただきたいと思っています。 (2021.9.5)
参考
「データベースを用いた国内発症小児Coronavirus Disease 2019 (COVID 19) 症例の臨床経過に関する検討」の中間報告
「新型コロナワクチン~子どもならびに子どもに接する成人への接種に対する考え方~」に関するQ&A