まだしばらくは辛抱が…

院長です。

新型コロナウイルス感染拡大のため、自粛による自宅中心での生活が長くなっていますが、一方で新規感染者数の報告が減少傾向にあり、各地で徐々に元の生活が戻りつつあります。しかしながら、第2波、第3波の流行に備え対策を継続する必要があり、今後もある程度の自粛生活が求められるとされています。今日はその理由について説明したいと思います。少し難しいところがあるかもしれませんが、よろしければ最後までお付き合いください。

「基本再生産数(R₀)」という言葉を聞かれたことがあると思います。これは、ある感染症に罹った1人の感染者が、感染力を持っている間に新たに感染させる平均の人数のことを言います。R₀が1よりも大きければ、感染は拡大していくことになります。

このR₀は、数式で表すと、次のように計算することができるとされています。それぞれの要素は、下記のようなものと考えると分かりやすいかと思います。

R₀=β×S×D

β:人と人との接触回数
S:この病気の感染力
D:感染力のある期間

R₀を1未満にするには、つまり新たな感染者が出ても感染を拡大させないようにするためには、いずれかの数値を小さくすればいいことになります。では、それぞれの数値を小さくするために、私たちは何ができるのでしょうか。
βについては、今私たちが行っている行動変容になります。自宅でできるだけ過ごして外出の機会を減らし、人との接触の機会を減らすことによって、R₀を小さくすることができます。
Sについては、具体的にはワクチン接種になります。ワクチンを接種することにより多くの人が抗体を持つことができれば、感染した人に接触しても、感染せずに済みます。
Dについては、具体的には治療薬の投与になります。有効な治療薬ができ早く治るようになれば、感染力のある期間も減ることになります。

このように考えてくると、まだワクチンが開発されておらず、明らかに有効な治療薬が確立されていない現状においては、私たちの行動変容がR₀を1未満に維持する唯一の手段ということになります。将来、ワクチンや有効な治療薬のいずれか、または両方が開発され実用化されたときに、ようやく私たちの行動変容の手を本格的に緩めることができるのです。

今後、緊急事態宣言が解除されていくと思いますが、完全に元の生活に戻ってしまうと、簡単に感染の第2波がやってくるでしょう。ワクチンや治療薬の実用化が実現されるまでの間は、ある程度の辛抱を継続していく必要があると考えておきましょう。  (2020.5.12.)