院長です。今回は、母子健康手帳にある「発育曲線」について考えたいと思います。
 発育曲線は、厚生労働省が10年ごとに全国の乳幼児の身長や体重を男女別に集計したデータを元に、成長の推移を表したグラフのことです。母子健康手帳に掲載されている一番新しい曲線は、平成22年9月の1ヶ月間に全国で無作為に選ばれた子どもを対象に調査された厚生労働省のデータを元にしています。成長曲線の色のついた範囲は、調査を行う年にそれぞれの月齢の子どもを集め、全体の94%の子どもが入る範囲を示したものです。わかりやすく言うと、それぞれの月齢の子100人を計測し、それぞれの計測値について小さい順に並べ、4番目から97番目までの範囲をつなぎ曲線として表したものなのです。一人の子どもがどのように大きくなっていくのかを見たものではありません。
 子どもの身長・体重・頭囲と成長曲線を比較して分かることは、全体のなかでどのぐらいのところにいるかという目安が分かるだけです。94%の子どもが色のついた範囲に含まれるということは、1~3番目の小さな子や98~100番目の大きな子にあたる約6%の子も必ず存在するということです。つまりあの色のついた範囲は、「正常範囲」を示しているわけではないのです。この範囲に入っていることが大切なのではなく、現状でどのあたりにいるかを確認し、その子なりの発育をしているのかどうかをみていくことが大切なのです。具体的には、曲線に沿った発育が得られていれば、問題はありません。発育曲線の色のついた範囲から外れていることが、発育上の問題を示すものではないのです。
 この発育曲線との比較で一番多い相談が、母乳で育てられている赤ちゃんの体重に関することです。とくに離乳食が始まるまでの授乳期の相談が最も多く、「体重の増えが悪い」というものです。そしてそのほとんどが、健診や家庭訪問の際に体重が発育曲線の色のついた範囲の下の方であったり曲線より少し下に外れていて、それだけが問題視されて「ミルクを足しなさい」「ミルクの量を増やしなさい」という「指導」が行われた場合です。この時期に体重が最も重要視されるのは、授乳量を反映するからです。その面から考えると、このような指導が必ずしも間違っているとは限りません。しかしながらほとんど全てと言っていいくらい、お母さんの母乳分泌の状態が確認されていないのです。さらに、お子さんの授乳パターンや出生体重・在胎週数も確認されていないことが多いのです。たとえば、在胎37週、2500gで生まれた赤ちゃんと、在胎41週、3500gで生まれた赤ちゃんとでは、飲み方も発育の仕方も異なります。体重が軽い赤ちゃんは実は身長も色のついた範囲の下の方にあり、小柄だけれどバランスがとれた発育をしていることはよく経験されることです。これまで述べてきたように、ある1点だけでは、体重の増え方をはじめとした発育の評価はできません。数か月の単位で記入していったときに、曲線から大きく外れていたり、横ばいのままであったり、減少している場合に初めて、その原因を調べる必要が出てきます。
 健診に関わる私たちは、その時点でのすべての計測値をみることに加え、母子健康手帳の記載事項より妊娠中からその時点までの経過を確認し、授乳の状況や離乳食の進み具合を聞き取り、全体像を把握しなければなりません。そして気になるところがみられたときは、家庭の状況にも配慮しつつ具体的な対応の仕方を提示し、必ずその後のフォローアップを行う必要があります。日々赤ちゃんと向き合っているのは、お母さんであり家族です。健診は異常がないかどうかを確認するだけではなく、些細なことでも相談ができ、それらが解消され、親子の歩みを後押しする場でなければならないと思います。発育曲線は、その目的で利用するツールの一つなのです。  (2015.11.22.)