愛着形成とお父さんの役割

院長です。前回からの続きで、今回は愛着形成について。
ヒトは生まれつき、他の人にくっつきたい、くっついていたいという強い欲求が備わっていることが知られています。何かをしてもらえようがもらえまいが関係なく、それ自体を目的として、とにかくくっつきたいからくっつく、という性質をもったものです。これを一般には「愛着(アタッチメント)」と呼んでいます。ヒトの社会性の発達は、愛着の形成を基礎として、誰か他の人との密接な関係を築くところから出発します。
母親は出産直前から産後1~2か月にかけて、自分自身の身体的・心理的変化から、生まれてきたわが子に強く没頭し、それが契機となって育児が開始され、母親として成長していくと言われています。これを原初的没頭といいます。この時期には、赤ちゃんとの関係に没頭する母親と、母親の養育行動を引き出そうとする赤ちゃんとの相互の働きかけによって母と子の関係が築かれ、愛着が形成されていきます
この時期を赤ちゃんと一緒に過ごすことはとても大切なことですが、それですべてがうまくいくのかと言えば、必ずしもそうではありません。
愛着形成がうまくいかない要因としては、まず赤ちゃんの個人差があります。母親の持つ力をうまく引き出し、自分の行動を周囲に適応させていくことができる赤ちゃんもいれば、こちらから上手に赤ちゃんのサインを引き出し、その子にあったかかわりを探していかなければいけない赤ちゃんもいます。場合によっては、母親はわが子のことを「わかりにくい」「育てにくい」と感じてしまい、育児に対して自信をなくしてしまいます。
母親側の要因としては、マタニティブルーや産後うつがあります。産後に母親がこのような状態になってしまうと、赤ちゃんに関心が持てなくなり、赤ちゃんのさまざまなサインをうまく読み取ることができず、適切に対応することが難しくなります。また、母親自身が育てられた環境の中で、しっかり愛されて育ってきた体験がなかったりする場合、赤ちゃんとの接し方がわからなかったり、赤ちゃんのサインや反応の読み取りがうまくできなかったりします。
一方で、赤ちゃんの成長とともに母親のケアし方が上手になり、母親としての自分に自信が持てるようになると、赤ちゃんの母親への愛着が、不安定なものから安定したものに変化するといわれています。さらに重要なことは、母親が安定して周囲からの温かいサポートを受けられ、安心して赤ちゃんと向き合うことができれば、安定した愛着関係が形成されやすいということです。

 

前回述べたとおり、長い進化の過程は、赤ちゃんと大人の両方に愛着形成のための仕掛けを準備してくれています。妊娠・出産いう流れの中で、産後すぐのお母さんに原初的没頭の時期が用意されているということは、ます初めにお母さんと赤ちゃんとの間の愛着が形成され、それがその後の人間関係の形成や社会性の発達の基本となるということだと思います。そしてこの時期のお父さんの役割は、お母さんと赤ちゃんをまるごと包み込む存在となり、お母さんが安心して赤ちゃんと向き合うことができる状況をつくってあげることなのです。    (2014.5.27.)