今週のおはなし会について

 院長です。今週金曜日の「小児科の先生とおはなししよう」は、「当院が行う母乳育児支援、そしてお産との関わり」というテーマとさせていただきました。
 現在の地にクリニックを開業してから4年近くになります。その前の10年間は、産婦人科医との協働開業の時代でした。全てのお産に立ち会い、入院中から産後も継続して赤ちゃんとお母さんの成長を見守り続けました。その中で特に重点を置いていたことの一つが、母乳育児の支援でした。生まれた瞬間から退院までの間、毎日赤ちゃんとお母さんと接することで、教科書には書かれていないような細かなことを知ることができました。生まれた週数、体重、授乳のしかたは赤ちゃんそれぞれに違い、一つとして同じような母子のカップルはありません。母乳で育てることが難しくなっている理由の一つに、このようなことを無視して、教科書やマニュアルに書いていることに合わせるよう、支援者がお母さん・赤ちゃんに強いてしまっているということがあります。そこに書かれてあることは知識の範囲でしかなく、支援者はそれを基礎に目の前のお母さん・赤ちゃんに最も適切な支援を、具体的に分かりやすく提供しなければなりません。特に産後の入院期間中にどのような支援が提供されるかは、その後の母乳育児に大きく影響します。お産のところからお母さんと赤ちゃんに関わる機会を得られたことは、今の自分にとって何よりの財産となっています。
 母乳で育てることは、一見当たりまえのことのようですが、十分な支援が無ければ難しい時代となっています。私たち支援者が果たす役割はとても大きくなっているのですが、母乳で育てることが目的となってしまってはなりません。さまざまな理由から、ミルクを併用されている方もいます。ミルクだけで育てることを選んだ方もいます。大切なことは、お母さんが日々のわが子の成長を喜ぶことができ、「ああ、この子が生まれてきてくれてよかった。」と心から思えることです。そう思えているかどうかで、赤ちゃんの表情は全く違っています。母乳だけで育てることがすべてではありません。
 これまでの経験から感じていることは、母乳育児に関することだけではなく育児に関する支援は、出来る限り早い時期から継続的に行う方がよいということです。理想を言えば、それは妊娠早期から、ということになります。当院が助産院を併設している理由は、ここにもあります。これまでに延べてきたようなことを妊娠中にお母さんに伝えることができれば、心と体の十分な準備をした状態でお産に臨むことができます。同じ助産師・小児科医が継続して支援することで、戸惑うことも少なくスムーズに赤ちゃんとの生活のスタートができます。しかしほとんどの場合は、産後の入院期間が終わり産院を退院すると、1か月健診まで間が空いてしまいます。最近は生後2週間健診が行われ出していますが、それを除けば、ことあるごとに産院に問い合わせることはなかなかできないものです。そして1か月健診が終わると、産院とのつながりも終わることがほとんどです。この時期に悩みやトラブルを抱えているお母さん・赤ちゃんに、少しでも早く支援を提供できればと思っています。
 今回このテーマを選んだのは、現在の形での開業を始めて4年近くが経過し、このようなこれまでの取り組みをご存じない方が増えてきているのかもしれない、そう感じたことも一つの要因です。母乳のことだけではなく、育児全般に関すること、お産についての僕の考えや思い、現在行っている支援についてお話したいと考えています。できれば、皆さんの悩みや疑問にお答えしつつ進めたいと思っています。平日の午後という限られた時間帯で申し訳ないのですが、多くの方のご参加をお待ちしています。  (2016.6.5.)