乳児健診に求められるもの

 院長です。当院の外来には、健診をきっかけに不安を抱かれたお母さんが、相談に来られることがあります。産科での1か月健診後に多いのは、体重の増え方について。その多くの場合は、体重増加が少ないことを健診で指摘されて、相談に来られます。地元の自治体での3・4か月健診後についても、一番多いのが体重増加についての相談です。ではなぜ、体重の増え方が重要視されるのでしょうか?
 一番の理由は、授乳量をもっとも反映する計測値だからです。以下は母乳で育てられている場合について述べたいと思います。母乳で育てられている場合(混合栄養の場合も含め)、私たちはどの程度母乳が飲めているかを数字で把握することができないので、体重の増え方をみて判断します。体重増加が十分かそうでないかは、1か月健診時には1日当たりの平均体重増加で、3・4か月健診では、母子手帳にある体重増加曲線を用いて判断します。体重増加が十分でないと判断された場合、母乳分泌が不十分なために飲む量が少なくなっていることが原因とされ、多くの場合はミルクを足す(ミルク量を増やす)ことを指示されます。医療機関での小児科医による健診の場合は、たとえ赤ちゃんが元気でも、赤ちゃんの側に原因が無いかどうか、さまざまな検査が行われることもあるようです。  
 ここで問題なのは、体重増加の評価の仕方です。ほとんどの場合、健診時の体重だけをみて評価されてしまっています。その日の体重以外に判断材料としてまず確認しなければならないのは、生まれた時の週数、体重、身長です。週数の割に生まれたときの体重が軽い場合は、その後の体重も軽めに経過する場合が多くみられます。身長が低め(小柄)であれば、その頻度はより大きくなります。1日当たりの体重増加が少なめであっても、成長曲線の標準とされる範囲の下の方を推移していても、それはその子なりの成長を示している場合が多いのです。母乳分泌量が十分であっても、乳頭のくわえさせ方が浅いと、十分量の母乳を飲みとることができません。眠りがちの赤ちゃんの場合は、授乳時間が短くなり授乳量が少なくなりがちです。上の子がいる場合には、授乳に集中できなくて授乳量が少なくなる場合もあります。また、分娩時に会陰切開が行われていたり帝王切開で出産している場合は、傷の痛みのために出産後しばらくお母さんは思うように体を動かすことができず、母乳分泌が順調になるまでに時間がかかることもあります。このように赤ちゃんの体重増加が十分でない場合、母乳分泌量が足りないことが原因とは限らず、たとえそうであったとしても、その原因を取り除くことができれば分泌量が増えることは十分に期待でき、ミルクの投与を必要としない場合が多いのです。ミルクの投与がかえって母乳分泌量を減らしてしまうこともあります。  
 この時期は、母乳育児を確立する上で重要な時期であるだけでなく、お母さんと赤ちゃんの関係性が育まれていく上でも、とても重要な時期です。期待される体重増加が得られていないとしても、病的な体重増加不良の場合を除けば、一律にミルクを補足することなく時間をかけて個別に対応することは可能だと思います。赤ちゃんだけではなくお母さんの状態にも気を配り、原因を明らかにし、具体的な対処方法を伝えたうえで、順調に経過し始めるまでサポートするという姿勢が大切なのです。 
 最近は1か月健診も小児科医が行うことが多くなっていますが、ともすると赤ちゃんにばかり目が行ってしまいがちです。お母さんも、母親となってまだ間もないのです。そして赤ちゃんとお母さんは、切り離して考えることができない共に歩む存在です。私たち健診に携わる者は、お母さんと赤ちゃん、そして家族の将来を常に見据えつつ、途切れることなく支援していくということが求められています。いつもそれを忘れずに、健診に臨みたいものです。 (2015.7.18.)