鼻汁・鼻閉・咳嗽について

院長です。今回の風邪に関する最終回は、よくある症状の「鼻汁・鼻閉・咳嗽(はなみず・はなづまり・せき)」について述べたいと思います。

【鼻汁、鼻閉】
 
鼻粘膜の腺細胞からの分泌される粘液の増加や、毛細血管からの浸出液が増加することで鼻汁となります。また、鼻粘膜の血管拡張により鼻閉がもたらされます。体に侵入する病原体をはじめとする異物をブロックし、押し戻して洗い流すという役割を演じているのです。鼻汁・鼻閉を生じる状態では、眼から鼻腔に連なる鼻涙管を涙が流れにくくなり、眼に停滞した涙が乾いて眼脂が増加しやすくなります。
 
風邪症状で受診する多くの子どもは、実際には鼻副鼻腔炎の症状です。乳幼児期では鼻腔と副鼻腔(鼻腔に隣接した骨内にある空洞で、鼻腔とつながっている)との交通性が良く、鼻炎と副鼻腔炎を区別して考える必要はありません。風邪の経過中にはほとんどの場合、鼻副鼻腔粘膜の炎症があり、貯留液も頻繁にみられます。風邪症状が1週間続いた場合、90%で副鼻腔に炎症症状がみられ、70%の例で副鼻腔に貯留液がみられます。乳幼児が集団生活を開始すると、頻繁にウイルス感染を反復するために、副鼻腔に長期間分泌物が貯留した状態となるため、発熱がなくても鼻汁・咳嗽の症状が長く続くことになるのです(風邪がなかなか治らないと感じるのは、このためです)。
 
乳幼児は風邪により頻繁に鼻副鼻腔炎を起こしますが、鼻腔と副鼻腔の交通が良く、溜まった分泌物は鼻道に流れやすいので、大人のような副鼻腔炎(いわゆる蓄膿症)になることはありません。鼻汁は前に流れて膿性鼻汁(黄色や緑色の鼻汁)となり、後方に流れた物を吸い込むと、喉を刺激することになり咳嗽反射が起こります。特に乳児は鼻呼吸が主体であり、鼻汁を吸い込むことにより夜間に湿性咳嗽を起こすことが多いのです。
 
細菌性副鼻腔炎の合併は稀で、抗生物質の投与が必要となるのは、①鼻汁と咳嗽が2週間以上持続する場合、②発熱や疼痛を伴うとき、です。鼻汁や鼻閉の治療薬として処方されるのが、抗ヒスタミン薬と呼ばれるものです。ヒスタミンの持つ血管拡張作用を抑えることにより、鼻汁・鼻閉を軽減する目的で投与されますが、副作用として眠気・口渇があり、けいれんの閾値を低下させる可能性も指摘されているので、乳幼児への投与は慎重であるべきとの意見もあります。

【咳嗽】
 
上気道(鼻から喉頭まで)に生じた炎症自体が刺激となるほか、気管支などで生じた分泌物を喀出するため、あるいはその分泌物自体が気道を刺激することにより、咳嗽が誘発されます。また、鼻汁が気道に流れ込むことによっても、咳嗽が誘発されます。小児に対しては、中枢性非麻薬性の咳止めが処方されることが多いのですが、実はこれらの薬物で、小児に有効性が示されたものはありません。

風邪症状である鼻水や咳は、感染防御の上で重要な身体の生理的な反応であって、風邪に伴う諸症状を、その意味・意義に目を向けることなく薬剤の力を借りて止めようとすることは、子どもにとっては意味がないばかりか時には有害でもあり、行うべきではありません。薬を服用することで、風邪の症状が早く良くなるわけではないのです。症状の程度や日常生活への影響の大きさにより、薬を投与すべきかどうか、投与するのであればどの程度の期間必要なのか、を考える必要があるのです。               (2014.12.30.)